最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)1209号 判決 1982年9月28日
上告人
森岡義明
右訴訟代理人
関康雄
被上告人
江草美義
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人関康雄の上告理由一について
譲渡担保は、債権担保のために目的物件の所有権を移転するものであるが、右所有権移転の効力は債権担保の目的を達するのに必要な範囲内においてのみ認められるのであつて、担保権者は、債務者が被担保債務の履行を遅滞したときに目的物件を処分する権能を取得し、この権能に基づいて目的物件を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめ又は第三者に売却等することによつて換価処分し、優先的に被担保債務の弁済に充てることができるにとどまり、他方、設定者は、担保権者が右の換価処分を完結するまでは、被担保債務を弁済して目的物件についての完全な所有権を回復することができるのであるから(最高裁昭和三九年(オ)第四四〇号同四一年四月二八日第一小法廷判決・民集二〇巻四号九〇〇頁、同昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁、同昭和五五年(オ)第一五三号同五七年一月二二日第二小法廷判決・民集三六巻一号九二頁参照)、正当な権原なく目的物件を占有する者がある場合には、特段の事情のない限り、設定者は、前記のような譲渡担保の趣旨及び効力に鑑み、右占有者に対してその返還を請求することができるものと解するのが相当である。
したがつて、右と結論を同じくする原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
同二について
記録によれば、所論の証人は唯一の証拠方法ではないことが明らかであるから、原審がこれを採用しなかつたことに所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 伊藤正己 寺田治郎 木戸口久治)
上告代理人関康雄の上告理由
一、原判決は被上告人が訴外有限会社吉屋に対し、本件土地を譲渡担保に供したことにつき、「譲渡担保が設定された場合においても、設定者に対しては右担保権の制限内で所有権が留保され、これに基づく物権的請求権は失われるものではないと解するのを相当とする。」と判示するが、譲渡担保の場合でも所有権は対内的、対外的に移転するのであつて、原判決には法解釈を誤つた違法がある。
二、原判決は「中尾末野において本件土地につき賃借権を有していたとの事実を認めるに足る証拠はない。」と判示するが、原審において上告人がこの点を立証する証人を申請したにもかかわらず、これらの証人を採用しないまま、右判示をなしたのは著しい審理不尽と断ぜざるを得ない。